本の棚

海外から通信販売で本を買うということ


冬の日暮れもつるべ落とし。
緯度の高いヨーロッパの夜が、こんなに早く暮れるものだとは思ってもいなかった。
この冬は11月から雪が降りはじめ、12月には市の除雪用の予算をオーバー。
以後道はつるんつるん。
それでも降りしきる雪。
静か。
夜中にブレーキをきしらせながら走る車もなければ、
さわぐ酔っ払いもいない。
犬の吠える声さえもめったにない。
戒厳令かいな。

それでも同居猫アムタオは昨日から夜遊びに出たっきり。
どこかで暖をとっていることを祈るばかりだ。
こんな夜はネットでもして、さっさと寝よう。
屋根裏部屋のワンルーム、寒々とした台所スペース。お昼の社食は胃がもたれて腹保ち最高。
室温は下階からの暖房と隙間風のなさでそこそこ快適。
机のライトだけつけて、コンピュータに向かう。
静けさの中電気音だけがうなりをあげる。

現地語のシャワーのような仕事場から開放されると、夜には完全に飽和状態。
日本語しか見たくない。

いつもまわるブログはまだ更新されいてない。
新地開拓しないと、思いつつ昔働いた本屋サイトを覘く。
当時の店長さんは今どこで何をしているのだろう。
どこの棚のどの段のどのあたりにあるか一瞬にして唱えられ、新刊の発売日までそらで言える人だった。
それも理系の棚。
突然シングルファザーになってパパ歴8年にして突然子育てと仕事の両立を強いられていた外商さんもいたな。
もうお孫さんがいたりして。
本屋自体もいつのまにかチェーン店になってしまった。

わたしはひとり、なぜか異国で間に合わせの現地採用を演じている。
人生、どうなるかわからんもんやね。

考えるのは止めにして、よそのネット本屋に移る。
先日送ってもらった『家守綺譚』は読み終えてしまった。
次は何をいこう。

送料実費という優しさにあまえる反面、
どうやって経営が成り立っているのかと思うこともある。
なにをいっても見るのはタダよと、サイト内をクリックしていく。

おぉ、平岩弓枝の『かわせみ』、続いているではないですか。
『慶次郎縁側日記』 これも時代物ですか? 
ふるさとは遠く離れて思うもの、チェックするのは時代物。
小早川涼、最近のお方なん?
藤井 邦夫の『養生所見廻り同心神代新吾事件覚』早口言葉に見えてくる

 ー こっちに住んで何年ですか
尋ねられて、へらへらと答えていたのは初めの3年くらいだった。
外国語レベルと滞在年数は比例しないんですよ。ホームズ君。
旅先で和書の古本屋をめざし、そこで真鍋博が表紙を飾るアガサクリスティを買いあさった私に何を求める。
反面、日本の流行(はやり)にも疎くなる。日本の旗、異国の色にも染まず漂う。

なんだか眠気がやってきたよ。
ネット本屋はいい。買い物籠にどれだけ入れても重くないから。
入れるのはタダ。人目もない。
立ち読み万引きがない分、本屋も気が楽かもしれない。
ただこっちは実物を手にできない分、購入イコール博打である。
「元手をかければかけるほど当たるんや、いけぇぇ!」
そういえば、春の教科書販売のバイトで、競馬キチの大学生がおったっけ。
学生の分際で破格の現金を動かしていた。
あいつなら、大穴狙いで大金をつぎ込んだだろう。
小心者の私は小金でちまちま、しょぼい賭けを試みる。

宮部みゆきか。『魔術はささやく』作業場で図書館装丁している最中に開いたら、とまらなくなって、結局店抜きしてレジに走ったっけ。
『おまえさん』 ハードカバーと文庫本、同時発売。なんて優しい。 
 『あんじゅう』 これは文庫待ち。でもその時は挿絵ついてくるのだろうか。
『雷獣びりびり』 高橋 由太  このへんは出版社が押してるのかな、あっちこっちで名前を見る。それとも畠中恵の『ゆんでめて』を買っちゃったからそのつながりで気になるのか。

『空ばかり見ていた』 吉田 篤弘 装丁がマニアックらしく、そそられる。
小沼丹、昔挫折したけど、まだ子供だったからかな。もう一度トライしてみたい。
森博嗣、理系はいけるかな。
米原万理 『対談集』 この方、亡くなっちゃったんだよね。憧れだったのに。
向田邦子、浅羽莢子、世の中の男はいったい何をしてたんだ。

『吉野吉野人』井上ひさし この方も遠藤周作さんももう。
北森鴻さんも突然だった。

阿川佐和子と壇ふみさんの対談も、お腹がすくんだよな。
本が料理を作ってくれたらいいのに。
尾崎翠、『第七官界彷徨』肥やしを煮る?

 「お、フクロウのロゴや」
とつぜん耳元で声がした。
後に誰かいる。
玄関が机から見渡せるのに、誰かが入ってきたとは一切気が付かなかった。
でも、後は壁しかないはずで。椅子が壁際までせまっていて。人が立つ隙はない。

「『猫道楽』なんやねんこの題は。もっと大きいもんの話はないんか、スケールちっこいやっちゃな。どうやってこれ使うん」
画面の上のポインタが勝手に動く、右端のマウスもスイッチがあったかのように机上をひとりで暴走している。
「同じ著者で 『宇宙百貨活劇』、『銀木犀』、『箪笥のなか』、少女漫画かいや、
『新世界』はB調やろ」

あんた誰、言いたくても声がでない。背中に汗が噴出してくる。
若い男の子の声。10代? いってて20後半? こっちでそんな関西人、いたっけ。

「ふぅん、便利やん。これで浦沢直樹ってひけるんか。キートンあれからどうなったん。
どないして買うん? 買うたら送ってくれるん? Jカードみたいなんいるん? 買い物カゴてなに、わぁぎょうさん入って。
買え買え〜」

夢だ、夢だ、夢だ、夢だ、夢だ、夢だ、

固まっているわたしを相手にもせず、お化けはひとりでわいわい言いながら、コンピュータの画面をめまぐるしく動かしている。
「んまで引こ思たらどうしたらええん、詳細検索、ジャンル? 園田はないんか。
『獣医ドリトル』、『サラブレッド穴ゴリズム』、『はたらく大きな自動車』、なんでそんなんが出てくるんや」
そんな声を聞きながらわたしはいつしか意識を失っていた。

寒さでふと目が覚めた。
机の上にひれふしていた。
キッチンからグラスの音がする。
ばりばり何かの袋をあける音がする。
「なんでチョコレートしかないねん、するめはないんか、ワイン? 栓抜きどこや」
なんでもあげる。好きに食べて。供えたるからとっとと消えて。
思いながらわたしはベットに全力疾走をした。

翌朝、目が覚めるとブツは消えていた。
コンピュータはつけっぱなし。画面は黒いが作動している音がする。
台所は前にアムタオが荒らしたときよりも激しかった。

泥棒?
財布、小切手をチェック。触られた形跡はない。
けれど、それで安心できるか。

マウスを動かしてコンピュータを確認しようとした。

 "注文ありがとうございました"

セーブから生き返った画面からそんな言葉が浮き上がった。
え?
あわてて本の買い物かごを見る。すっからかん。
注文履歴をあわててさがす。
長野まゆみ、高橋由太、ピーコ、田丸公美子、『イケズの構造』、『夢をかなえるゾウ』、『パンツの面目ふんどしの沽券』。。。
自分が積んでおいたものがずらりとならんでいる。
送り先はここ。
真っ青になりながら合計金額を確認する。考えた末、キャンセル交渉はしないことにした。

ただ、一番最後に覚えのない本が一冊入っていた。
『復興の道なかばで』中井久夫


馬キチ@バイト君?

もしかして君の"時"は17年前に止まってる?


ごめん。そうやったん。知らんかってん。 
まさかそんなことになってたなんて。

呆然としていると、昨日の騒動の中で聞いたのだろうか、彼の声がよみがえってきた。

拾った命やん、楽しみや。


キートンそろえて待っとくよ。









おまけ:
題名のみでてきたについての覚書(敬称略。

『家守綺譚』 梨木香歩
『かわせみ』 平岩弓枝
『慶次郎縁側日記』 北原亞以子 
『養生所見廻り同心神代新吾事件覚』藤井 邦夫 

『おまえさん』 『あんじゅう』『魔術はささやく』宮部みゆき、
『雷獣びりびり』 高橋 由太
『ゆんでめて』 畠中恵
『空ばかり見ていた』  吉田 篤弘
『第七官界彷徨』尾崎翠
『吉野吉野人』井上ひさし 
『猫道楽』『宇宙百貨活劇』『銀木犀』『箪笥のなか』『新世界』 長野まゆみ 
『Master キートン』 浦沢直樹
『獣医ドリトル』 作・夏緑 画・ちくやまきよし
『サラブレッド穴ゴリズム』 日夏 ユタカ
『イケズの構造』 入江 敦彦
『夢をかなえるゾウ』 水野敬也
『パンツの面目ふんどしの沽券』 米原万理
『復興の道なかばで』中井久夫


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           2012年01月 


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