お江戸お食事処

山本周五郎

 最終更新日:2004年6月10日

数ある作品の中、一番に浮かんでくる"食べ物"に(も?) まつわる話とは、
「おごそかな渇き」に収録されている「あだこ」。

婚約者に去られて人生を投げ、仕事もせずに酒びたりになった若侍。
奉公人は逃げ、借財はかさみ、とうとう酒も食べるものも尽き果てた。
ときどき水を飲むだけで、あとは飢え死にするのを寝て待つ捨て鉢の半三郎の元に、
えらく色の黒い娘が現れた。
「塩引と菜っ葉の汁だけですけれど、どうか起きて召し上がってください」

借金のたまった米屋や八百屋、魚屋から売り物を借りうけるあだこの手際が鮮やか。
この辺りの種明かしなど、涙ナシには読めやしない。
(↑ここがお食事処の筆頭に挙がった一因。
  ネタばれ抵触で、くわしいところは書けやしない)

とにかく投げ槍の男所帯の家が、五日もすると住める状態になり、風呂も入れるようになった。
あだこは針も使え、上手に仕立て直しもする。
繕い物を持ってきては、あだこはつれづれに話をするのだ。
故郷の話、昔の話、そして庭の奥に三十年も住み着いた、いたちの夫婦の話などを。

時代小説なんて読まないよ、ぶんがくなんて漢字が多くて、山本周五郎なんて、名前だけでも固そうじゃない、
なんていう人も、これだけは一度お試ししてみられませんか?

以下、他の著作の紹介です。
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江戸を中心にした時代小説、大衆小説というそうです。長編では
小石川養成所の医者見習いが見た「赤ひげ診療譚」
奉公先をともにした粋な栄二と、愚鈍なさぶの半生を描く「さぶ」栄二は無実の罪を着せられて...。

短編なら
「ひとごろし」から
武家屋敷での人情話の究極「裏の木戸はあいている」
男まさりの年増の女史が登場
「しゅるしゅる」
気の強い意地悪な幼なじみを許婚にもつ女嫌いと、奉公人の恋
「女は同じ物語」

「大炊介始末」
から
武家のみそっかす四男坊は嫁がもらえるか?(普通は望みがない)
ひやめし物語」

一冊にはまとまっていないが
自分のことを、のろまで気のきかない婆さんと信じ込んでいる“おたふく”の三部作
「松風の門」から「湯治」「つゆのひぬま」から「妹の縁談」「大炊介始末」から「おたふく」 
特に「おたふく」は逸品。

「つゆのひぬま」から
朝から晩までしゃべっるしゃべるしゃべるしゃべる武家の三男坊「おしゃべり物語」

「夜明けの辻」
から
調子のいい甥が頑固な家老に居候を押し付ける
「嫁取り二代記」

「おごそかな渇き」
から
幼なじみ達のその後を描く
「将監さまの細道」
旅籠での、うぶな客とおぼこの女中の仲を描く
「鶴は帰りぬ」
名馬一斉に鼻をそろえる将軍家の馬競べに老馬をとことこ走らせる「紅梅月毛」

「町奉行日記」
から
軟弱侍が次から次へと家老の鼻をくじく
「わたくしです物語」 侍の元許婚が絶品。

「ちいさこべ
から
幼なじみの勝気な娘と頑固者の大工の棟梁
「ちいさこべ」


「花杖記」から
うっかり者の若いお武家が、小間使いに想いをかける
「小指」

他多数。武家物、人情物、下町物、遊女物エトセトラ、エトセトラ。
女性像が“一歩下がり男を立て”的な話もあるけれど、それがイヤで手を出さないというのはあまりにももったいない話の宝庫です。

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緑の文字は本のタイトルです。すべて新潮文庫。

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