お江戸お食事処

池波正太郎

 鬼平犯科帳
    おいしい場面
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    シリーズ詳細 覚え書き
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 食卓の情景
 略歴
 よそのサイト

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鬼平犯科帳

TVを見るような視覚的な捕り物帳。
事件が起こって、ことの背景に人情劇があって、最後に派手なちゃんばら、捕り物劇があって、ラストは一件落着で。
主人公は穏やかな笑みを浮かべ人あたりのいい温和な長谷川平蔵、
40代の火付盗賊改方の御頭 (特別警察の長官)。
盗賊たちは「鬼の平蔵」、「鬼平」と恐れることこの上ない。

血なまぐさい乱闘、入り乱れるどろどろとした人間関係、愛憎、色事、
さすが男の描く時代劇。
しかしどうして飯食いシーン、なんでこんなに旨そうなのか。

というわけで、話の気勢を盛り上げるとか、ことの重大性を間接的に伝えるだとか、
そういう文学の話はそっちのけにして、
ただただ食欲をそそるメニューを羅列するためのページです。

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おいしい場面:

「そこにはあたたかい飯、熱い汁、焼きたての魚がある。そしてまめやかなおふじの情愛がたちこめている。
索漠としたわが家にくらべて、おふじの小屋の一刻は、どれほど十蔵のこころをなぐさめてくれたことか……。」

冷え切った夫婦間は冷や飯と冷めた干物と香の物が似合う。
かろうじて温かいのは下女が火鉢にかけてくれた汁物。
その下女も笑顔ひとつ向けることがない。
外の女は十蔵にとってひときわ大切なものになっていく。「唖の十蔵」

二十年ぶりに再会した剣友と湯豆腐と熱い酒を酌み交わす。
雪にふりこめられた茶屋でふたりの憧れた女性のことを、眼の色かえて語りあった。
「本所・桜屋敷」

第一巻

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冒頭からはじめての蕎麦屋〔さなだや〕に入る平蔵、
「酒と……それから、天麩羅をもらおうか」
これから何が始まるか。 
飲み食いしながら店を見回す。
店の亭主、ひとりいた客、鬼平の視線は人の心の奥までのぞく。

ラストで黙々と呑むのも同じ店。
「ありあわせでござります。よろしかったらお箸をおつけ下さいまし」と店の亭主が茄子の香の物へ溶き芥子をそえ、銚子とともに運んできてくれた。
重い事件の余韻から抜けだすささやかな一品。 「蛇の眼」

不安におびえる密偵を元気づけ、助ける場面にて麹町の〔瓢箪屋〕が登場。
酒とともにとった蕎麦には貝柱のかき揚げが浮いている。

一方捜査の合間に平蔵が、部下にすっぽんを食べに行こうと誘う場面がある。
「すっぽんもこの頃は上等になったもので」と言う部下に
「うむ、おれが親父の若いころには、道端の屋台で煮売りをしていたとさ。あんなものは武士が口にするものではない、なぞと、おりゃ、ずいぶん、お小言をくったものだ」「密偵」

 第二巻

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見ほれた茶屋の女主人と話すきっかけとなったのは、
"糯米の粉をねった純白のねじり団子へ砂糖をかけた"〔白玉餅〕と酒を頼んだこと。
「艶婦の毒」

"生簀(いけす)からひきあげたばかりの鯉を洗いにした、その鯉のうす紅色のひきしまったそぎ身が平蔵の歯へ冷たくしみわたった。"
酒と鯉と豆腐の田楽、そして鯉の飴だき。
京都、愛宕山の絶景の中にある、わら屋根の風雅なかけ茶屋で鬼平と部下がしたたか飲む場面から話ははじまった。「兇剣」

 第三巻

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"当時十か十一の少女だったおまさは、父親の忠助と二人きりで暮してい、
平蔵が酒をのみすぎた翌朝など、その小さな手で、器用に白粥に梅干、香の物をそえたものをこしらえ、平蔵のいる中二階へはこんで来てくれたものだった。
"
親父にも世話になったが、そんな娘だったおまさのピンチ、鬼平助けずにいられるものか。〔血闘〕


"〔嶋や〕には気のきいた板前がいて、ちょいとうまいものを食べさせるので、平蔵はひいきにしている。"
ここでのとったのはあぶらののった沙魚(はぜ)を生醤油と酒で鹹(から)めにさっと煮つけたもの。
「五年目の客」


 第四巻

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「乞食坊主」にて中心人物の乞食坊主が托鉢をして(この托鉢がまたご利益のありそうな托鉢で)
その後ついでに菜飯と田楽で腹を満たす。
そのあとぶらりと帰路につくさまがなんともほのぼののんびりと。

"近くで鰻を馳走になったことがある。
忠吾から見ても、源八が、
(叔父上を見忘れるはずはない)
のである。
"
「おしゃべり源八」

「兇賊」で居酒屋〔芋酒・加賀や〕というのが出てくる。
"ごく小さな店をやっているのだが、気が向かなければ店の戸を開けもしない"
ここの芋酒は絶賛を受けている。
"「いやもう、加賀屋の芋酒をやったら、一晩のうちに五人や六人の夜鷹を乗りこなすなんざあ、わけもねえ」"そうで。
文中にレシピありです。ちなみに材料は山の芋と日本酒のみ。
手に入ったら試してみようかなぁ。(別に精力剤が欲しいわけではないのですが)
この亭主、"六十になるまで女と暮らしたことのない男であったから、こまめに気のきいた肴をつくるし、当人もまた、ひそかに、
(おれの生き甲斐は一にお盗〈つと〉め。二に包丁を持つことさ)
自負しているほど"
...精力剤はいらんがこんな人と遭ってみたいじゃござんせんか。
〔加賀や〕の評判の料理は〔芋膾〈いもなます〉〕
サトイモの蒸したのに漬けた鯉かスズキをのせ、合わせ酢をかけまわし、きざみしょうがをそえた料理。
詳しいレシピは話の中にあります。なんだかこの人が書くと、妙に旨げに聞こえます。
ここに丸写ししたいところですが、やっぱり読んでのお楽しみということで。
 第五巻

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食卓の情景

小学生のとき屋台に弟子入りしたかった話、店番をして客をさばいていた話、
母と妻のいる家での食事の支度、できの話、
取材にでたときに何をたべようあれを食べようと思い悩む話、
止まり先でどこどこのビフテキをとってもらったという話、
どの店が旨かった、どの店の店員がなっていなかったので早々に切り上げて食べなおした、
食べることに関する話がぎっしり。
読んでいて、池波正太郎氏の人を見る目、食べることへの真剣さが生々と伝わってくる。
空腹にはキツイ涙が出るほど濃い内容。
舞台でテンポを生み出し、緊張感を盛り上げる「食べる場面」は、そのまま小説に現れていた。

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この本で紹介されている暮しの手帖社の「おそうざいふう外国料理」という料理本、
写真も字体も時代を感じさせる。古そうすぎて台所の肥やしになっていたのだけど、
あらためて開いてみるとなるほど素人にでもできるように書かれ、写真を撮られた一流料理人の作った本、
池波正太郎氏がご夫人にこれを渡して作らせているそうで、
「カラー写真と説明の味わいとに、すこしも狂わぬものができる」
これがあれば食通池波氏の絶賛した味が私にも出せるかも...。

伝統料理なんておばーちゃんの味が受け継がれてきたものなんだから、
スパゲチ、メリケン粉、白ソース、時代が感じられても、
味は今でも旨いのだ。

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略歴:
1923年東京、浅草生まれ
小学校卒業後、株屋に。
戦後、東京都職員に転職。
長谷川伸氏の門下生で新国劇の脚本、演出を担当。
1960年直木賞受賞(錯乱)
1990年 急性白血病で死去

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鬼平犯科帳関係のサイト:
鬼平遊歩道 読んで納得、見てうっとり

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