旅行者の朝食 +エッセイ  米原 万里 著
食べることが好きなヒト → 旅行者の朝食
イヌ・ネコが好きなヒト → ヒトのオスは飼わないの?
通訳・翻訳に興味があるヒト → 不実な美女か 貞淑な醜女か
魔女の1ダース
ガゼネッタ&シモネッタ
ロシアに興味があるヒト → ロシアは今日も荒れ模様
ウオッカに興味があるヒト → 上記すべて (「ヒトのオスは飼わないの」は除く)
ロシアを追体験したいヒト → 嘘つきアーニャの真っ赤な真実 
変動ロシアを知りたいヒト → オリガ・モリソヴナの反語法 
読書録、日記        → 打ちのめされるようなすごい本
対談集            → 言葉を育てる
読んでないの本 真夜中の太陽 (2001年8月)
パンツの面目ふんどしの沽券

対談集

著者はロシア語会議通訳者のトップの方。テーマが多岐にわたる国際会議を数々こなし、ロシアと日本を行ったり来たり。言葉に対する姿勢は超シビア。

好きな著者でしたが、この方が、こんなに食欲魔人だとは、まったく存知あげませんでした。旅行者の朝食を読むまでは。

最初に他の著作を読んだときは、ロシアとそこに住む人々のキョウレツさにばかり気をとられていましたが、あらためて読み返してみれば、あるわあるわ、食べる話に飲む話。なにより処女作のプロローグ、それも一行目で既に通訳は鮭の骨をノドに引っかけ、救急車で病院に運ばれている。
わたしは今まで、何を読んでいたのだろう。

    

オリガ・モリソヴナの反語法 (2002年10月)
高いぶ厚いこ難しいタイトルで、買わずにいたけれど奇しくも回ってきたので手にとった。
手にとったらもう放せない。
米原真里氏のポーランド通学記を読んだことがあるならそこここに散りばめめられてきた話が一気に筋を通し、歴史の物語となって繰りひろげられる。  
天才、神童というほめ殺しはそのまま強烈な当てこすりとなり、時代遅れな舞台がかった衣装をまとった自称50才の老いた舞踊教師はひとたび踊りだすと人々をただひきつけ、その振りつけは魂を躍らせ。
そして主人公の通った学校には古典ともいえそうな今や聞かなくなった古風なフランス語を話す、品のいい語学教師がいた。
そして年をへて20年、30年、学校時代不思議に思ったあのお偉いさんが階段を転がり落ちた事件はなんだったのか、先生の娘は先生の何人目のご主人の娘だったのか。そもそも本当に先生の娘だったのか。
日々の生活中で音信普通になった昔の友だちを追う中、ロシア変動期に翻弄された人たちの過去が浮かびあがってきた。
ロシアが変わる中、桁違いな無実の人が理不尽な罪を着せられたことか。
ああ、神様!神童! あたしゃ感動のあまり震えが止まらなくなるよ!ことあるごとに少年少女を"褒め"たたえたあの先生は、とうの昔に銃殺された人だった?

  語るためにはパンツをちらり、「ガゼネッタ&シモネッタ」で語られた手法が怒涛のように使われて。
 え、ここで話をきる?ここで語り手病欠!?
 ずるずる引き込ませてくれる本でした。
 引用される「明るい夜暗い昼」正、続、続々とあるエヴゲーニヤ・ギンズブルグ著、集英社文庫、この本も前後して読めれば相互作用でロシアの恐ろしさと極限の中の人間が見えてくるかも。



嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (2001年7月)

  10代前半まで通ったプラハ・ソビエト学校時代の同級生3人を30年後に探す主人公、
 当時はうかがい知れなかった友人たちの気持ちや事情が初めてわかる。
 小学生のみんな、誰もが歴史の中で自分ひとりでは抗いようのない境遇と家庭の事情を抱えていた。
 えげつないエロ話をきかせてくれたリッツア、嘘だなんて全く信じられない口調で真っ赤な嘘をつくアーニャ、クラスで一番勉強ができ、絵を描かせると独特な色使い、群を抜いていたヤースナ。
 それぞれ国境のむこうにさまざまな想いを抱えていた。


  
旅行者の朝食 2002年 文藝春秋社発行  

まず、オビがいい。そして中身は食べる話でいっぱい。キャビアの養殖法、ロシアのまぼろしの銘菓、ロシア民話、おおきなかぶのカブとはなにか、シベリアの鮨屋、エトセトラ、エトセトラ。どの話も著者がロシア通訳として渡り歩いた経験と知識に基づき、自らの胃袋を120%活用して書かれている。これほどの切迫感と臨場感。米原万里氏、通訳の頂点に立つ方だと思っていました。大食いもきわめておられるなんて。早食いについては終盤戦に入るほど加速がつき、登場人物も増えていく。
                               ☆たわごとに紹介あり

   
   

ヒトのオスは飼わないの 2001年 講談社

どのページもイヌネコばかり。仕事に出ればイヌを目で追い、出張に出ればモスクワからブルー・ペルシャをつれて帰り。仕事が先かイヌネコが先か? 一緒に暮らすイヌネコたちは絶えず何かをしでかしてくれる。新参者ににやきもちやいて家出するネコ、カミナリを怖がるイヌ。それから彼らがどうなったか、コトの顛末を知るためにどんどんページをめくってしまう。このサスペンスは推理小説に限りなく近い。

   
   
   

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か1994年 徳間書店 1997年 新潮文庫
(読売文学賞M、随筆紀行賞受賞)
処女作。国際会議を次々こなすということは、数限りない専門家が口ばしる数限りない専門用語を頭につめこむということ。通訳業の苦労話、陰の努力、ピンチ、そして醍醐味がぎっしり詰まっている。文章を書く方、外国語を学ぶ方、なにより通訳を夢みる方に、この本ははずせない。
文中にあるソ連の国語、ロシア語の授業は、日本と比べてまったく“国語”のとらえ方が違い、このまま、国語の教科書に入れてしまいたい。


   
   
   

魔女の1ダース 1996年 読売新聞社 / 1999年 新潮文庫 (講談社エッセイ賞受賞)

所変われば人変わる。そういうことは日常茶飯事の通訳者、ある日魔法使いの集会に参加。そこには、新たな世界が広がっていた。
海外の事情について、外国語について、昔やった添乗員の経験もまじえて、見知らぬ異国をありありと描いてくれる。そしてどのエピソードにも、思いもよらぬどんでん返しが待っている。

 この本に関してはウォトカネタは少ない。けれど他の著作ではめったにお目にかかれない、シモネッタが見られます。


   
   
   

ガゼネッタ&シモネッタ 2000年 文藝春秋社

韓国で「サンドイッチ」は? 
老後の保証を持たない通訳が 設立する老人ホームの名前は?(ヒント、言いだしっぺはドイツ語通訳者) 
イタリア男が女の子を饒舌にまくしたてる、ホメ言葉の数々を正しい日本語に直すと?
そして、米原氏の師が明かす、文章を書く秘訣とは?

専門家が集まる国際会議で、耳も口も休まる暇ない通訳者。その姿をウラもオモテも見せてくれる。

また、逃せないのは著者が10代前半を過ごした、プラハのソビエト学校でのエピソード。
手のつけられないイタズラ坊主が走りまわり、フレンチボーイがクソッと毒づく。そんなある日、クラスは文学熱に取りつかれた。その読書ぶり、図書館へ足繁く通うさまは女性教師を狂喜乱舞させた。しかし、その情熱にはワケがある。さてさて、その裏には? 


   
   
   

ロシアは今日も荒れ模様 1998年 日本経済新聞社 / 2001年 講談社文庫

近くて遠いロシア。ソ連のゴルバチョフ、エリツィン、そしてロシアのことがテレビでも新聞でも、インターネットでもない、じかに出会ったヒト・クニとして感じられてくる。
この本はロシアのジョーク、通訳中のエピソードも満載されているが、特に呑む話を編纂するにあたっては製本過程に「ウォトカにひたす」という工程も加えたに違いない。アルコール度が高すぎるため紙は傷まず、ただただ、匂いがただよってくる (ような気がする)。

言葉を育てる 2008年 ちくな文庫

対談集。
小森陽一/林真理子/児玉清/西木正明/榊津十月/養老孟司/多田富雄/辻本清美/星野博美/田丸公美子/糸井重里 & 黒岩幸子

小森教授:変動の時期をチェコですごし、
中学校で吾輩は猫に感動したと読書感想文に書けば先生に「誤読」で片付けられ、
大学は第一希望の学部に入れずけっきょく学生運動に明け暮れ。
人から色々言われたり、先生に否定されたりして、挫折の理由をつけるのは簡単だろう。
けれど、そういうものを言い訳にせずきっちり自分の足で立っているすがたには頭をたれます。。。



うちのめされるようなすごい本

本への着眼点、生きる姿勢、そして闘病記。
ご冥福をお祈りします。




HOME 本の棚