伯母のアパート

花巻の大叔母から電話があった。
「八幡のアパート住んでんか。なんやよーわからん人が追ぉても追ぉても入りよるんや。管理の人なんもしよらへん。払うんやめたら合鍵売って逃げてもた。どないかしてくれ。あんた暇やろ」

四畳一間の古長屋アパート。タタキもガラスも震わす声だ。
「暇って、わたしだって仕事あるし。八幡のアパートって、播磨やろ、わたし尼まで通とんねんで」
え? なに、都合によって鼓膜のオンとオフがj自由自在に切り替わる。
「神戸も曽根も動かれへんねんて。てっちゃんも克くんも忙しいて。子どもおらへんのはあんただけやん。埼玉は畑あるし、じんちゃんは転勤で次どこなるかわからへんゆうてる。みんな逃げとんねんで。頼りになるのはあんただけや」
わたしも逃げる。言おうとしても大叔母は間髪いれさせない。聞いたらあかん、この話はあぶない。心のどこかで警戒信号が鳴りひびく。うちの親戚は大なり小なり生存本能の塊だ。
「出向かれれへんけどビザは出したるって加古川のあっちゃんが言うとるわ。あんたやっぱり新さんの子やな、運ええわ」
ビザ?

「鍵と住所、宅配で送るわな。あっちゃんは生まれたときから大船乗りやから。ほな。なるべく早ようによろしゅう」

ダイヤル式の受話器を置く金属音が響く。部屋の温度が五度ばかり下がった気がした。




2014/02/06

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